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2005年10月23日 (日)

市民球団が危ない

今、野球協約の抜本的な改正が行われようとしていますが、阪神タイガースの球団株上場問題を受けて、「上場は悪」という一方的な認識の中で協約改悪の方向へ進むことが危惧されます。私も村上氏の言うところの球団株上場には今のところ反対ですが、資金調達の方法を多様化するとか、ファンが株を持つということ自体には賛成です。
ところで、この問題に対する豊蔵セリーグ会長の御意見は「悪質株主の介入が懸念される。ただ利益(追求)だけで持たれても、文化的公共財の位置づけからも困る。」また小池パリーグ会長の御意見は「球界、球団は普通の企業とは違って、文化的公共財。ファンあってのプロ野球でどう判断するか。」
そこまで「プロ野球は文化的公共財」というなら、なぜ昨年、球団統合を身を挺して止めなかったのか。昨年はナベツネ氏が賛成した、今年はナベツネ氏が反対している。それだけの理由で、当事者意識もなく、親会社の経営問題に口を出せないと言ったり、資本の論理を球界に持ち込まれても困ると言ったり、主張が180度転換するというのは情けないというか、あきれるというか。球団株上場という提案をどうにか活かす方法はないかということをもう少し考えてから発言したらどうなのか。それと、突然、錦の御旗に祭りあげられた「文化的公共財」の文言。この定義をしっかりとしてもらいたい。親会社の経営状況が思わしくない時は、球団の歴史と文化を守るための措置をとり、長年球団を支えてきたファンの支持を失わないようにするのがNPBとしてやるべきことでしょう。
さて、上場について話を戻します。
一般企業の場合、事業を拡大するのに資金調達をしたいというケースがままありますが、プロ野球チームの興行で求められる資金調達の用途は何でしょうか?単なる戦力補強のための上場というなら「金で選手を集める競争」が助長されるだけで、球界がいい方向へ向かうという保証はどこにもありません。一方で、新球場建設(広島の場合)や球場改築(楽天の場合)の資金調達の手段として一時的に株式を上場し、公募増資を行うというのは、広島版樽募金を資本市場で行うものであり、そのような可能性までも閉ざしてしまうのはどうかと思います。悪質な株主対策としては、種類株式の導入なども考えられます。種類株式とは、利息の配当などの財産の分配や議決権について内容の異なる株式のことをいいます。この制度を活用すれば、例えば「新球場建設資金募集」という目的に添った種類株式の設定が可能となります。議決権を制限すれば買い占めても乗っ取りはできないことになりますし、配当を抑え球場でのサービスに特化した株主優待を与えれば八百長の心配も減り、ファンや地元を中心とした球団のための投資という位置づけで資金調達ができるのではないでしょうか。新球場での経営が順調で投資資金が回収されたら球団が株を買いとったっていいんですし。
またファンが球団の株を持ち、何らかのかたちで(ゆるやかに)経営に参画してもらうということも悪いことではないと思います。というか。。。その考え自体が大阪市民球団の骨子になります。村上氏の球団株上場の提案は、大阪市民球団にとっても構想を実現させる一つの方法の提案ということになります。ただ、ファンが球団株を持ち経営に参画するという目的において、ファン以外の株主も多数混ざってくる上場という手段が?なのであり、なにわっちさんのコメントにあった「ファン出資のホールディング名義で3分の1」とか、横浜FCで実行されているクラブ会員への種類株式の発行など、実効性のある方法はいくらでもあるはずです。横浜FCの場合、法人は普通株式、個人は種類株式という割当で、種類株式に一定の議決権を与えています。それぞれ、クラブメンバー限定の発行であり、上場という手段に比べ悪質な株主が混ざるという懸念は極めて小さいといえるでしょう。
現状の野球協約の第28条をみると、「球団は発行済み株式数、および株主すべての名称、住所、所有株式の割合をコミッショナーに届けなければならない」とあります。また「株主に変更があった場合はその都度届け出る」ともあります。これが、日々刻々と株主が変動する上場を難しくしている一つの理由となっていますが、NPBが球団株主の適性を判断できない仕組みはダメだから、多数の個人株主がいる状態はダメだという方向で野球協約を改正しようとなると、場合によっては市民球団のような仕組みは門前払いということになりかねません。
楽天のTBS株取得について、「楽天は球界参入時に協約順守を誓約しているのに」いうコメントがたびたび言われています。この誓約書については「野球協約第36条の9(誓約書)」で詳しく書きましたが、楽天のようなケースに加え、「既存の野球協約に守られたプロ野球の経営のあり方を根底から見直したい」という前向きな意見さえも封じ込める道具として使われかねません。
チーム名に企業名を冠し、国税庁長官通達に基づく節税対策として企業に利用され、経営状況が悪くなればファンの存在を省みずポイ捨てされてきたプロ野球の実態。その仕組みがオリックスにはじまり、ライブドア、楽天、ソフトバンク、村上ファンドという資本の論理で動くマネー論者たちにかき回され、それを指をくわえてみているだけのNPB。大阪市民球団の構想は、ファン不在のこのような状況を何とかしなければ、という動きでありたいと思っていますが、既存球団と新興勢力の「抗争」の果てに「構想」をつぶされないようしなければいけませんね。

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コメント

トラバありがとうございました。
確かにオーナーさん達は去年と今年と言ってることが正反対ですね。経営努力を怠ってきた会社の社長さん達がなんとか保身を計ろうとあたふたしているようで客観的に見れば面白い状態ではありますが。
赤字垂れ流してきた会社など、たいがいは責任取って辞任とかするわけですから、NPBは今まで興行的に採算を合わせることを全く考えてこなかったツケを払うべきですね。でないと、新規参入を阻む「現在球団を持っているオーナーが認めたら」なんて条項は明らかに独占禁止法違反のように思えるのですが、なぜNPBはそういう協約を作っていても問題にならないのかが不思議です。

投稿: ぢょや | 2005年10月23日 (日) 13時01分

ぢょやさん、コメントありがとうございます。

>経営努力を怠ってきた会社の社長さん達がなんとか保身を計ろうとあたふた。。。

まぁ自分たちの球団を守るのがお仕事ですから。オーナーや球団幹部に球界の発展を願うのが無駄だというのは昨年来の会議などでの彼らの発言から十分にわかったことです。せめて自分たちの球団は守り、ファンを悲しませることだけはしないようにと願いたいモノです。

>新規参入を阻む「現在球団を持っているオーナーが認めたら」なんて条項は明らかに独占禁止法違反のように思える。。。

この条項自体は法的には全く問題ないんですね(^^;
明確な理由もなく参入を認めなかったらその時に問題になるかもしれませんが。
独禁法の関係では、昨年改正された加盟料と楽天に対する仕打ち(TBS問題じゃなく、著しい戦力不均衡をもたらした昨年の分配ドラフトの方)について「合併球団と新規参入球団に対する独占禁止法」で少し考察しています。

投稿: 紅の牛 | 2005年10月23日 (日) 23時20分

TBありがとうございます。
株式上場は結構難しい問題だと思っています。
ある程度の歯止め、例えばマネーゲームに使われない
ような規制はかけた上で、市民が株を持てるなら
それはいいことなのでしょうが。
現在の野球界の首脳達にはちょっと対応できない
問題なので、確かに協約を改悪されてしまう可能性は
高そうです。
しかしそういうことを考えるきっかけになっただけでも
今回の事態は意味があったと思うし、オーナー連中も
今までのようにはいかないことは感じているはずです。

投稿: 虎哲 | 2005年10月24日 (月) 19時57分

TBありがとうございます。

オーナー企業の広告塔として球団が私物化されている現状を打破して、市民球団化を推進するには、野球協約で本拠地移転を厳しく制限した上で、球団に対する投資のインセンティブを高めるために球団株上場を解禁・奨励するという方法も考えられます。村上ファンドによる阪神球団上場の提案は、市民球団化を進める上での起爆剤になるかもしれません。

投稿: びんごばんご | 2005年10月24日 (月) 22時56分

虎哲さん、コメントありがとうございます。

>ある程度の歯止め、例えばマネーゲームに使われないような規制はかけた上で、市民が株を持てるなら。。。

ファンの投資枠を何%かに決めて最大持株数の制限をかければ問題ないと思ってます。それなら上場の必要はないでしょう、ということですが、だからといって上場という手法を禁止すべきとも思っていません。

>しかしそういうことを考えるきっかけになっただけでも今回の事態は意味があった

井の中の蛙を変えるには外圧しかないってことでしょうか(^^;

びんごばんごさん、コメントありがとうございます。

>市民球団化を推進するには、野球協約で本拠地移転を厳しく制限。。。

確かに市民球団の本拠地移転はおかしいですね。ただ野球協約で制限するには、全球団を市民球団化することが前提のような気がします。地元密着型のJリーグに習うべき部分とプロ野球の独自性を出すべき部分。。。なかなか難しい問題ですね。

>球団に対する投資のインセンティブを高めるために球団株上場を解禁・奨励するという方法

上場することによって誰が投資するのか、球団にとってのメリットは何か、投資家のインセンティブとは何か。。。とにかく上場の可能性を見いだしたいとは思っています。


投稿: 紅の牛 | 2005年10月25日 (火) 00時33分

TBありがとうございました。「ファンが球団株を持ち経営に参画するという目的において、ファン以外の株主も多数混ざってくる上場という手段が?なのであり」のくだり、大賛成です。村上さんが阪神電鉄の株をもつことはべつにいいことでも悪いことでもなくただの経済活動ですから構いませんが、球団の上場をすすめるにあたり「ファンに聞いてみればいい」というのはやはり偽善としか思えません。おっしゃるとおり、広島のように球団が資金調達のため株式を発行してファンが持つというのはよいことと思いますが、阪神に関しては上場の必要がないと思うのです。

投稿: m_kuri_m | 2005年10月25日 (火) 23時02分

m_kuri_mさん、コメントありがとうございます。

>球団の上場をすすめるにあたり「ファンに聞いてみればいい」というのはやはり偽善としか思えません。

ファンに聞くこと自体は悪いことじゃないんでしょうけど、上場するという意味のほんの一部だけしか説明せず、本来の目的(村上ファンドの投資家への利益還元が最優先)をオブラートで隠して「ファンのため」とのたまうところが偽善っぽいですね。

村上氏の行動は、それが仕事なのですから、一部で報道されているインサイダー疑惑が無実なのだとすれば、悪いことをしているということではありません。ただ、ファンドマネージャーというのは金融取引のプロなんですから、自分の言動が多くの人に影響を与えるという自覚を持って、例えば上場に伴うマイナス面をもきちんと説明した上で、それを克服する手段まできちんと説明するのが筋ってものでしょう。
村上氏にとっては、阪神電鉄の株を2~3年持つかもしれない。。。という自体が予想外の長期保有ということになるわけです。ですから、阪神タイガースの10年後を考えての言動などあるはずがなく、短期的に、上場により利益を確保できればいいというのが全てなはずです。そこのところも正直に話してくれれば、逆に納得できるのですが。

もちろん、上場=全てが悪、ということでもないでしょうから、多面的な見方をしていきたいですね。

投稿: 紅の牛 | 2005年10月26日 (水) 01時41分

トラックバックありがとうございました。
企業法務に実際に携わる立場からは、紅の牛さんがお考えの「市民球団」と「上場」は、若干結びつきにくい気もします(例えば、ファンがコントロール権を握って一般投資家から資金を募るという形をとった場合に、一般投資家の資金でファンが(経済的には)不合理な、しかし、ファン心理からは理解できる行動(過度の選手補強や観戦設備への投資)をとることを適切にコントロールできないという問題が生じてしまいます)。
ただ、「市民球団」にせよ「上場企業」にせよ、単体として存続できる基盤を持たなくてはいけないという意味では、「上場」が今の球界に投げかける問題提起は、かなりの部分で共通してくるんでしょうね。
一過性の話題作りではなく、客観的な議論が深まっていくといいんですが・・・

投稿: 47th | 2005年10月26日 (水) 05時18分

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