オーナー会議の続編:楽天問題の今後
「統治能力をなくしたオーナー会議」の続編として、改めて楽天によるTBSに対する経営統合の提案について考えてみます。楽天としてはTBSとの経営統合に成功すれば、本業の「ネット」と「放送」の融合を目指すというのが目的です。先日のオーナー会議の席で、三木谷オーナーは、「楽天と楽天球団は別法人。横浜に影響を及ぼすことはない。なぜ楽天だけを問題にするのか」と発言していました。本業と球団経営は別物という意味合いなんでしょうけど、楽天の中で楽天球団は中核事業の一つですから、当然、TBSを通じた放送で楽天球団を積極的に取り上げたいという要望が出てくるはずです。その時、そもそもTBSの保有している横浜より露出度を高めるのはダメ、といったTBS・横浜側と「利害関係※野球協約第183条のただし書きに登場する用語」が衝突する可能性もあります。単に八百長とか不公正なトレードのみが懸案事項ということではないんですね。もちろん、楽天としては、TBSの株取得が野球協約違反となることは百も承知のことだったのでしょう。だから、横浜ベイスターズをUSENに売却することで(USEN側とのみ)話をつけ、二重保有の状態を解消するというシナリオを描き、球界の院政気取りの渡邊恒雄氏に事前に相談していたんですね。しかし、おそらくは三木谷オーナーの予想を超えるTBSの拒否反応で、経営統合も横浜売却も否定されてしまい、窮地に陥っているというのが今の状況なんでしょう。三木谷オーナーは、また、オーナー会議で、野球協約第183条の例外規定が適用されているフジテレビ→ヤクルト(20%)とフジの子会社ニッポン放送→横浜(30.8%)の球団株保有と役員派遣が認められているのになぜ楽天がダメなのか、異議を唱えています。フジテレビとニッポン放送が野球協約違反かどうかの論点は、両社が野球協約第183条の「事実上支配権を有するとみなされる株主」に当たるかどうかという点です。出資比率は両社とも1/3未満ですから重要事項の拒否権もなく、役員を派遣しているといっても多数ではないでしょう。したがって「経営に関与している」とは言えますが、「事実上支配権を有する」とは言えないでしょう。だからフジテレビとニッポン放送の件は野球協約に適合していると認められてきたわけです。それが先日のオーナー会議では、「コミッショナーが文書で善処を要望する」というワケのわからない処置が施されることになりました。しかも、この処置は野球協約第186条によるコミッショナーの指令ではなく、何の強制力もないとのこと。。。明確に協約違反の楽天問題は先送りして、協約適合と判断された過去の事例に形式的な文書を出す、もう迷走以外の何ものでもありません。
さて、そのオーナー会議の議長を務めた宮内オーナーの発言。
「野球が親会社の経営戦略に波及していいのか。最終的に子会社のことで親会社がM&Aをやめるのか、という選択になることも考えられる。」
これはつまり、楽天が野球協約違反と認定された場合は、コミッショナーにより、「楽天が楽天イーグルスを売却する」「TBSが横浜ベイスターズを売却する」「楽天イーグルスと横浜ベイスターズを統合させる」「楽天がTBS株を全株売却する」のいずれかを速やかに実施しなさいという指令を出すことになるが、それは(社会常識として?)おかしいだろうという発言です。NPBに加盟している球団は野球協約を守るということが前提であり、その最高意志決定機関であるオーナー会議の議長が「協約違反の行為を責めるのはおかしい」と言っているわけで、普通に考えれば「あんた(宮内オーナー)の言ってることがおかしい」と言われても仕方がありません。宮内オーナーは、「楽天のTBS株取得が野球協約違反になるとすれば、それは野球協約の方がおかしいと考えるべきだから、楽天に対する処分は保留として野球協約第183条の見直しを早急に行いましょう。」と言うべきだったんですね。上の宮内オーナーの発言そのものは、今回の問題の本質的な部分として、もっと議論すべきことだったんでしょうけど、昨年の球団統合にしろ、今回の議長裁きにしろ、この人にはセンスがない!だからバッシングされるんですね。
ここでは、宮内発言をもう少し掘り下げてみます。まず「野球が親会社の経営戦略に波及していいのか。」そういう考えを持っているんなら、親会社のリストラに巻き込まれた大阪近鉄バファローズはどうなのか?オリックスにしろ、楽天にしろ、球団経営は親会社の経営戦略の一つでしょう。経営戦略を考える時、プロ野球の球団を保有しているというのは与条件として意識しているはずであり、無関係だと言うんなら経営者として失格です。次に「最終的に子会社のことで親会社がM&Aをやめるのか。」こちらが、より言いたかったことなんでしょうね。何しろオリックスはM&Aで成長している企業ですから。しかし、オリックスが阪神電車の株を買い占めるのと京阪電鉄の株を買い占めるのとでは、全く意味が異なってきます。オリックスが村上ファンドから阪神電鉄株の譲渡を受けたら、マスコミは一斉に「オリックス・阪神の統合か?」と騒ぎ立てるでしょう。阪神球団の保有が本意でないならば、やはり「子会社のオリックス球団のことで親会社のオリックスが阪神電鉄のM&Aを行わない。」という選択をせざるを得ないでしょう。
宮内発言を取り入れるべく野球協約を改正するんなら、資本と球団経営を分離させる方向で考えるべきではないでしょうか。大阪市民球団では出資者を小口分散させるという発想なので、そのスキームを考える時、どうしても資本と球団経営の関係がネックになってきます。それには、まず「企業がプロ野球に出資する意味は何か?」というあたりから考えていく必要がありそうです。
前回の「統治能力をなくしたオーナー会議」でのコメントは、くしくもオーナー会議における讀賣の滝鼻オーナーの発言に最も近かったようです。ただ、それは「ルールとして野球協約は守るべし」というコンプライアンスの観点で一致したというだけであり、野球協約を含め今後の球界をどうすべきかという観点で讀賣サイドの考えと一致しているとは思いません。
大阪市民球団の設立によって球界に新風を吹き込み、企業サイドと野球ファンである市民、そして主役の選手たちが共存共栄できる球界改革を模索していきたいと思います。とえらそうなことを言いながらあまりに微力ですが(^^;
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